「人生はプラスマイナスゼロだ」とか、本当なのか

「人生はプラスマイナスゼロだ」とか、本当なのか
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つらい出来事が続いたときや、不公平に感じる出来事を打ち明けたとき、
「でも人生って、結局プラスマイナスゼロだから」
そんな言葉をかけられたことはありませんか。

言っている側は慰めや達観のつもりでも、聞いている側は「今のマイナスは無視されるの?」「この苦しさは帳消しにされるの?」と、どこか置き去りにされたような気持ちになることがあります。一方で、この言葉に救われたという人がいるのも事実です。

この記事では、「人生はプラスマイナスゼロ」という考え方は本当に正しいのかを心理学の観点から整理し、この言葉を使う人の心理的背景、そして言われた側が無理をせずに付き合うための具体的な言葉や伝え方を解説していきます。

目次

「人生はプラスマイナスゼロ」とはどういう意味か

この言葉は、「良いことと悪いことは長い目で見れば均等になる」「今の不幸も、いずれ何かで埋め合わされる」という人生観を表しています。
宗教的・哲学的な背景を持つ考え方で、日本では特に「我慢」や「因果応報」と結びつけて語られることが多い言葉です。

ただし、これは客観的に証明された法則ではありません。
あくまで「そう考えることで心を保つための枠組み」であり、事実の説明というより、意味づけの方法だと捉えるほうが現実的です。

なぜこの言葉が救いになる人がいるのか

「人生はプラスマイナスゼロ」という考え方が支えになる人は、不安や怒りを長く抱え続けることが苦手な傾向があります。
この言葉によって、「今はマイナスでも、どこかで調整される」と思えると、感情の振れ幅が小さくなります。

心理学では、これは認知的再解釈と呼ばれる対処法の一種です。
出来事そのものを変えられなくても、その意味づけを変えることでストレスを下げる働きがあります。

特に、自分ではどうにもできない不運や理不尽に直面したとき、この言葉は「これ以上考え続けなくていい」という心のブレーキとして機能します。

なぜこの言葉がつらく感じる人もいるのか

一方で、この言葉が刺さってしまう人もいます。
それは、「今の苦しさ」がまだ整理されていない段階で、この考え方を押し付けられるからです。

心理学的に見ると、人はつらい出来事の直後には「意味」よりも「感情の共有」を必要とします。
「プラスマイナスゼロだよ」という言葉は、感情処理を飛ばして結論に進んでしまうため、「気持ちを無視された」と感じやすくなります。

これは、情動の未処理状態に対して、過度に合理的なフレームを与えられたときに起こる反応です。

「人生はプラスマイナスゼロ」と言う人の心理

この言葉を使う人の内側には、いくつかの心理が隠れています。

一つは、「世界は公平であってほしい」という願望です。
不公平や理不尽をそのまま受け入れるのは苦しいため、「最終的には帳尻が合う」と信じることで安心感を得ています。

もう一つは、「感情に巻き込まれたくない」という自己防衛です。
相手の苦しさに深く触れると、自分も不安定になるため、達観した言葉で距離を取ろうとします。

心理学では、これは防衛的意味づけや感情回避型コーピングと説明されることがあります。

この言葉が関係をこじらせる場面

問題が起きやすいのは、この考え方が「正解」として使われたときです。
「ほら、人生はプラスマイナスゼロなんだから気にするな」という言い方は、相手の感情を否定してしまいます。

その結果、言われた側は「弱音を吐いてはいけない」「苦しさを感じる自分が間違っている」と感じやすくなり、本音を隠すようになります。

付き合い方の基本姿勢

「人生はプラスマイナスゼロ」という考え方自体を論破しようとする必要はありません。
大切なのは、その考え方を「人生の真理」ではなく、「その人が選んでいる見方の一つ」と位置づけることです。

そのうえで、自分に合わない場合は、静かに距離を取る言葉を使うほうが摩耗しません。

使える言葉と、その言葉が効く理由

ここでは、実際に使いやすい言葉と、その心理的効果を表で整理します。

状況使える言葉の例心理学的な効果
言われて違和感を覚えたとき「そう考えると楽になる人もいるよね」相手の価値観を承認し、防衛反応を下げる
自分の気持ちを伝えたいとき「今はまだプラスマイナスで整理できる段階じゃないんだ」感情の段階を言語化する自己開示
話題を切り替えたいとき「今日は結論より、気持ちを聞いてもらえたら助かる」問題解決モードから感情共有モードへ切り替える
距離を取りたいとき「その考え方、今の私には少し重たいかな」バウンダリー(心理的境界線)の提示
押し付けられそうなとき「その考え方を信じるかどうかは、人それぞれだと思ってる」優劣構造からの離脱

これらの言葉は、相手の世界観を否定せずに、自分の立ち位置を明確にします。
心理学的には、これはアサーティブな自己表現であり、関係を壊さずに自分を守る方法です。

自分自身がこの言葉に縛られていると感じたら

もしあなた自身が、「人生はプラスマイナスゼロだから我慢しなきゃ」と考えて苦しくなっているなら、一度立ち止まってみてください。

心理学的に見ると、人生は出来事の合計値で評価されるものではありません。
苦しさは、その瞬間ごとに感じてよいものであり、「将来のプラス」で相殺される必要はありません。

「プラスマイナスゼロ」は、心が落ち着いたあとに使う考え方であって、痛みの最中に自分へ向ける言葉ではないのです。

人生は計算式ではない

「人生はプラスマイナスゼロ」という言葉は、誰かを救うこともあれば、誰かを黙らせてしまうこともあります。
それは真理ではなく、数ある人生観の一つにすぎません。

大切なのは、その言葉をどう扱うかです。
今の自分に合わなければ、無理に受け取らなくていい。
相手の考え方と、自分の感じ方は、同時に存在していてもかまわないのです。

人生は計算式ではなく、感じた分だけ確かに存在するものです。

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